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防災徒然草

防災徒然草は、14世紀の日本の随筆家、吉田兼好が自らの体験をもとに考えたことや逸話を綴った「徒然草」を真似て、小野裕一や財団のスタッフが、日々の防災への思いを投稿するものです。

border iconあの震災から10年を過ぎて

2021年6月4日

 もう10年か、まだ10年か?「まだ」である。まだ4万人近い福島の方々が避難を強いられている。「もう」である。もう10年も経っているのにこれだけ多くの方々が家に戻れていない。今年の3.11は初めて福島で過ごした。子供時代に宇都宮にいたことがあるので、福島は隣県、懐かしい思い出もある。P T Aか何かのイベントで中学3年のお盆休みに家族でいわきの勿来海岸を訪れた。生憎、やませ吹く寒い日で海に入ることはできなかったが、気の毒に思ったのか、漁師でもあった宿のおじさんが内海か入り江か思い出せないが1時間ほどモーターのついた小舟に乗せてくれた。観光するものなど特に何もなかったが、小雨に濡れながら眺めた白黒の景色が今でも目に浮かぶ。漁師のおじさんは無愛想であったが、かといって不快な表情もみせなかった。安全に気を遣いながらも黙々と子供達を船に乗せてくれた。日焼けした寡黙なおじさんは、今思えば福島らしい人だった。福島に限らず東北の人には言葉数は少ないがこんな実直な人が多い。そしてよく言われるように我慢強い人が多いように思う。この震災でもそうだ。4万人近い人たちが、震災以来の長い冬をどれだけ我慢してきたことか。少なくとも、福島の原発から電力を享受してきた関東の人たちは、福島の現状にもっと思いを寄せる必要があると思う。
 
避難所に向かう途中で亡くなった方々の気持ち。そしてご遺族の気持ち。故郷に帰ることができず避難所で亡くなった高齢の方々の気持ち。津波で行方不明になったにもかかわらず線量が高いために捜索もままならなかった方々の気持ち。理不尽にも帰宅困難区域で空き巣に遭われた方々の気持ち。長年耕作してきた土地を諦めなければならなかった方々の気持ち。手塩にかけて飼育してきた家畜を屠殺しなければいけなかった方々の気持ち。今でも値段が安く売り買いされている福島の農作物を出荷する方々の気持ち。風評被害は農作物や魚介類だけではない。福島出身者が全国各地で受けた差別。これには本当に心が痛んだ。コロナ患者に浴びせられる差別も同根であろう。苦しい思いをしている方々に追い打ちをかけるような酷い行動。「世知辛い世の中であることよ」と詠嘆してはいられない。同じ時代に東北に生きるものとして絶対に看過できない。反転攻勢をかけていきたい。
 
「World BOSAI Walk Tohoku+10」は福島のいわきを出発点とする予定である。原発の避難区域を南から北に向けて通過する中で、福島の今を世界に伝えていきたいと思う。風雪を越えて今まで頑張ってきた方々の思いを世界に伝えていきたいと思う。風評被害の払拭のため証拠を掲げながら世界に伝えていきたいと思う。福島の素晴らしさや豊かさを世界に伝えて行きたいと思う。そしてコロナ禍が終息した暁には福島に観光にきてほしいと思う。そのための見所を伝えていきたいと思う。これが復讐の反転攻勢である。東北の春は本当に美しい。長い冬があるからだ。長く厳しい冬の時代を越える福島は、きっと世界で一番美しく福を感じる場所になるだろう。残暑の中にも秋の気配を感じながら、この秋、福島の浜通りを颯爽と歩きたい。
 
小野 裕一
 

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